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酒井崇宏S&Cコーチが、月間トレーニングジャーナル8月号「バスケットボールにおけるトレーニング3要素」において、プロバスケットボール選手・津川隆治氏と上智大学保健体育研究室講師の元安陽一氏とともに、バスケットのトレーニングについての鼎談を行いました。
その鼎談の中から、酒井コーチのトレーニングのフィロソフィーに関する部分を抜き出しました。
項目・発言の順序などは、鼎談とは異なります。
「鉤括弧」内は、鼎談における酒井コーチの発言ですが、前後の文脈との不整合があった場合、その責任は引用者(種川亮)にあります。
 

レーニングについて

酒井コーチは、競技力の向上のための練習内容について「『トレーニング』と『バスケット』という言葉で分けてしまうと本質を見失ってしまう」と指摘し、「トレーニングも身体動作の練習という要素を含んでいますし、バスケットボールもトレーニングという要素を含んでいます」という。
「バスケットボールのためには、バスケットボールの練習をするのが一番です。バスケットボールのためになる一番難しいトレーニングはバスケットボールをすることだと思いますし、逆にバスケットボールのための最も簡単な練習はトレーニングだと思います」。さらに、トレーニングとバスケットについて「2つを上下に並べるのではなく、横並びにして捉え」、S&Cコーチのトレーニングメニュー作成において「条件の少ない、プレッシャーの少ない状況を作りたい」と考えて、「自分の身体と重りしかない状態で、どこまで精度を高めていくか」について取り組んでいる。

バスケットボールに必要な能力

バスケットボールにおいて高めたい能力として「力をためる、出す、伝える」を挙げて、それぞれについて実際のメニューの解説を加えながら説明しているが、鼎談の中でもう一点、「止まる能力」の重要性を挙げている。「良い選手を見ていると、止まることで相手と空間のギャップをつくっていく、自分を有利な方向に持っていくことができる」と指摘し、さらに「止まって動作が完結することはない」ことから、「止まった後に動作を選択できる姿勢」づくりのための種目を、「こうすることで完全にブレーキをかけられる、止まれるようになるというのではなくて、止まるということに意識を持つことができる」ことを重視した指導をしている。バスケットボールのように、状況の把握・理解とそれに基づく判断が連続するスポーツにおいては、ヘッドコーチなどが指導する“コート上での判断力”に対して、「判断の後にできるだけ早く動ける姿勢をつくる」ことを、S&Cコーチの指導上の役割として意識しているという。
また、この「止まる」動作を「力をためる」動作にしていくことの重要性を指摘する。「次の動作のためにブレーキをかけることと力をためることは表裏一体」であり、ジャンプやダッシュからのストップ・止まる動作において、減速した力を受け止めて、逆方向への力にかえていくことが、重要だとしながら、現状では「選手としては、力を受け止めるという感覚は少ないのではないか」とも指摘し、力を出すだけではなく、受け止めて方向をかえる感覚を養う必要性を説く。

身体感覚と時間解像度

もう一つ、バスケットに限らない、動作の向上に必要な感覚として、「時間解像度」という概念を紹介している。ある動作を行う際に、その自分の身体の動きをどれだけ細かく把握できるかということであり、酒井コーチは以下の例を挙げる。「たとえば、走るという動作について脚を持ち上げることが大切だという選手が居れば、脚を持ち上げてフッと力を抜いて瞬間的に脚を振り下ろして反対の脚が上がってくるという選手も居ます」。「1つの動作をすごく細かく分解して捉えられる」かどうかが「時間解像度」であり、トレーニングを通じて「1つの動作を単位時間あたりに分解していって洗練されたものにする」ことを目指しているという。
しかし、動作を細かく分解することは、あくまで選手の内感能力であって、コーチが言葉で教えることの弊害もあるという。「運動が自動的に起こっている部分というのがあると思っています。それを分解して教えることで、その部分を失ってしまう恐れがある」との考えから、細分化したものを「運動の理解が深まってきた選手」に合わせて段階的に指導するという。

S&Cコーチン

鼎談を通読して多く目にしたのが「そのことを選手が感じるためにはどうすればよいか」ということであった。選手たちの競技力の向上のために、メニューを工夫し、体育館のフロアやコンディショニングールームで長い時間を過ごし、体育館を離れてもそれ以上に多くの時間をトレーニングの成果が他の時間で出るために費やしている。そして、その取り組みの先に、明治大学バスケットボール部の選手たちが「トレーニングに対して積極的に取り組むようになってきました」という言葉の実感があるのだろう。
 
 
酒井さん、津川氏、元安氏の鼎談の様子は、ぜひ「Training Journal 8月号」(常備店はこちら)で。
本来の鼎談の趣旨である「バスケットボールのトレーニングに外せないビッグスリー(3種目)」と、それに関する意見交換が掲載されています。