次代を担う

伊与田俊はリーグ戦登録メンバーである。
しかし、ベンチ入りしたのは駒澤大学戦のみであり、出場時間もごく限られたものであった。
1年生の中で最も早くその能力を認められ、京王電鉄杯でトップチームに加わっていた姿を知る人には、物足りない結果と映るかもしれない。
しかし、伊与田にとってこの1年間はバスケットボール人生の中で最も貴重な1年間になったのではないか。
確かに、能力を認められながら、出場機会には恵まれないという状況は苦しいものであるが、その苦しみこそが伊与田にとって幸運だった。
今年の4年生には4人の小さい、かつ有能なガードがいる。
視野の広さを活かしたプレーメイクでチームを支える高橋伸仁。
ステディかつコンペティティブにチームをリードする神崎健。
絶対的なシュート力とアタッキングでチームを引っ張る神崎剛。
天才的な技術と爆発的な攻守両面でチームを加速させる緒方正剛。
伊与田は彼らを超えられなかった。しかしそれは当たり前なのだ。
4人で4通りの役割を果たし、4年間出続けてきた蓄積と相乗効果を持つこの4人と、今年入学してきた一人の1年生では。
彼ら4人を追い越すことはできなかった。しかし、伊与田は多くの事を彼らから学んでいる筈である。
彼らを超えようとした努力は、決して伊与田を裏切らない。
そして、彼らの卒業した来年以降のために、ノブの、健の、剛の、正剛の、彼らのハートを受け継ぐことが伊与田の成長に繋がるであろうし、そのハートを持つ伊与田が、チームを成長させる。
伊与田にとっても、明大バスケ部というチームにとっても、この苦しく、贅沢な1年間が存在した幸福を、将来において必ずや感じる時が来る。私はそう信じている。