Griffins' GRIT.

アメリカ合衆国に生まれた男たちは「俺達の」スポーツへの自負をこう表現する。
 曰く、「最も戦略的でタフなスポーツ」。
 曰く、「これ以上には進化しようのないスポーツ」。
それがアメリカン・フットボール。しかし、その“最も高度なスポーツ”の選手たるに不可欠なものはスピードでも、パワーでも、インテリジェンスでもないと言う。「それは“GRIT”だ」。と。 ボールを境界とする陣取りゲームとも捉えられるアメリカン・フットボールにおいて、各プレーヤーはボールを1ヤード(0.9144m)でも、1インチ(2.54cm)でも進める、または1インチたりとも退かないために自分が為すべきことに全力を尽くし、痛みに耐え、決して諦めてはならない。ライン陣は1秒の余裕をバックに与えるために1試合で100回以上も全力でぶつかりあい、ボールキャリアはタックルを受けた後も懸命に空を足掻く。そうした不屈の精神の有り様が“GRIT”であるという。
あえて“GRIT”を邦訳すれば、気骨、根性、意志、勇気。そしてもう一つ。
“愚直”。誤解を恐れずに言えば、これこそが今期*1明治大学アメリカンフットボール部・グリフィンズを象徴する言葉である。グリフィンズが持つチームとしてのスピードは関東トップクラスであろうし、さらにメンタル・タフネスや各自の意識、チームとしての勝利への意欲は決してライバル達に引けを取らないものの、対戦相手に応じて戦術を変えられるような器用さや、それだけで相手を圧倒できるようなサイズは持ち合わせていない。ならば自らの特長を前面に出し、相手を自分達の土俵に引きずり込んでいくほかない。オフェンスは速いテンポで5ヤード前後のゲインを積み重ね、確実にダウンを更新することでゲームをコントロールしていく。ディフェンスは鋭い出足でQBにプレッシャーをかけることでパスプレーを防ぎ、早い段階でパントを蹴らせていく。しかしこのゲームプランでは各プレーヤーにかかる負担はあまりにも大きい。速いテンポで試合が進めば、相手に休息する時間を与えない代わりに自分たちが息つく間も無いのだ。チーム全員が4Q・48分間の濃密な時間を全開で駆け抜くことを強いられる。リスクは、大きい。
それでもプレイオフから甲子園ボウルへと続く道には、自分たちよりも強いと言われているライバル達が立ちはだかる。彼らを倒すには、リスクを背負い、自らの苦しみを代償にそのリスクを乗り越えなければならない。その為に必要とされるのは、相手と痛みを恐れない勇気、「1インチでも前に行く」という意志、自分に任せられた役割を完遂する気骨、そして信じた道を突き進む、愚直さ。
 
グリフィンズは今日もまた八幡山の黒土の上で汗を流している。そこからは窺い知ることは出来ないライバル達を想像しながら。自分の限界の一歩前を駆けゆく想像上の彼らの影を追いかけながら。その汗が報われるかなど分からなくとも、信じた道を突き進んでいる。

*1:執筆当時=2003年度のこと