『最後のシュート』

アメリカはニューヨーク、コニーアイランドの高校でバスケットボールに青春を懸ける4人の少年達の物語。
しかし、彼らがバスケットボールに懸けていたものは、青春ではなかった。
有名大学への推薦とそれによるコニーアイランドからの脱出、そしてその後の輝ける人生の全てを、バスケットボールだけに賭けていたのだ。

最後のシュート (福音館の単行本)

最後のシュート (福音館の単行本)

彼らの前に立ちふさがるのは、相手チームでも、コーチでも、大学の推薦制度でもなく、もっと根源的かつ無慈悲な敵。アメリカに横たわる“貧困の罠”だった。
コニーアイランド公営住宅は、さながらアフロ・アメリカンのゲットーの様相を呈し、ギャングの持つ拳銃とディーラーの捌く麻薬が横行する。その町に育った少年達にとって、自分の成功の鍵となると思えるのはただ一つバスケットボールなのだ。
だが、たとえいかにバスケットボールプレーヤーとして優れていたとしても、高校から4年制大学への進学には全国統一の標準テストにおいて一定の得点を獲得する必要があった。
幼少期より“普通の”教育を受けてきた生徒にとってはさほど難しくはない基準点であるが、18年間を荒廃したゲットー・コニーアイランドで過ごし、家庭でも学校でも教育それ自体を全く与えられてこなかった少年達にとっては、バスケットボールをダンクすることよりもはるかに難しく、またギャングやディーラーの手から拳銃か麻薬を渡されることはそれより圧倒的に容易であった。
ニューヨーク随一の強豪校・リンカーン高校のスター選手であった、ラッセル・トーマス、チャカ・シップ、コーリー・ジョンソン、そしてステッフォン・マーベリーの4人は皆、大学からNBAへと羽ばたく自分を夢想し、それぞれの課題と、バスケットボールとに取り組んで行く。
“現代のアメリカン・サクセスストリー”のレポートを目指して紡がれていった物語の結末は……
 
アメリカの現実を映すノンフィクションであると同時に、大学バスケットボールプレーヤーにとっては、自分がバスケットボールをする意味と目標を考えさせるだけの力をもった物語。
日本の大学でバスケットボールができることの価値と意義を改めて感じる契機として、明治大学のバスケットボールプレーヤーにはこの本を強く薦めたい。